【闘病記】ケトアシドーシスで生死をさまよった糖尿病の猫、ヒューくんの現在

膵臓から分泌されるインスリンが少なくなったり、正常に作用しなくなったりすることで引き起こされるものが猫の糖尿病です。

糖尿病性ケトアシドーシス」という状態になるとかなりの危険な状態となり、命を落とすこともあります。

治療には食事療法やインスリン注射が必要となり、飼い主と猫が協力して闘病することが大切になります。

今回は、この糖尿病になった猫の「ヒューくん」の闘病記をご紹介します。

最初に出た症状

今年14歳になったヒューくんは、ご飯の時間、おにゃんぽの時間、ママが寝る時間をしっかりと把握しているというとても賢い猫です。

飼い主の奈緒さん曰く「言葉を理解している」そうで、「窓を開けようね」と奈緒さんが話しかけると「うん!そこからお外見る!」と返事をしているかのような表情で見つめてくるそうです。

そんなヒューくんに異変が生じたのは突然のことでした。

2016年のある朝、ヒューくんはいつものように窓から外をパトロールしていました。

ですが、奈緒さんはヒューくんのいつもと違う様子を感じていました。

「目力がなくうつろ」だったそうです。

少し様子を見ていましたが、横になってもうつろな目で眠ろうとしないヒューくんを心配し、すぐに病院へ連れていきました。

ただその時の奈緒さんは、ヒューくんはそこまで重症そうには見えなかったため「風邪かな?」と思っていました。

緊急入院


■入院中のヒューくん

診察が始まるとすぐに先生から「血液検査をしましょう」と言われ、いつもとは違う険しい雰囲気に、風邪だと思っていた奈緒さんは動揺しました。

そして血液検査の結果、糖尿病と診断されました。

さらにはその時のヒューくんはケトアシドーシスでとても危険な状態になっていることが分かり、酷い貧血で即入院と言い渡されます。

先生からの「お水をたくさん飲んでいましたか?尿量は多かったですか?かかとをつけた歩き方をしていましたか?」という問いに奈緒さんは戸惑いました。

ヒューくんはそのどれにも当てはまっていなかったからです。

「ただ、痩せていました」

と奈緒さんは振り返ります。

「1kgくらい痩せていたと思います。なぜ気付かなかったのか。ご飯はきちんと食べていたからかもしれません」

入院中に訪れた危機

奈緒さんに入院中の様子をうかがってみました。

「入院して始めの数日はぐったりしていました。目も開けずに横たわったまま、ただ息をしているという状態でした。ご飯も食べていませんでした」

入院の間は血管が壊れないよう注意してもらいながら、日に何度かの血液検査をしてインスリンを投与していました。

栄養分や水分の点滴も行なっていたそうです。

ですが状態はなかなか良くならず、入院してまもなく、ケトアシドーシスの数値が限界を超えてしまいます。

先生から「今夜が峠です」と言われたのです。

奈緒さんはその場で泣き崩れました。

「それからは何をしていても泣いてしまい、こんなに涙は出るものなのかというくらいでした。その当時に居たヒューの妹分のサラにはとても助けられました。サラ、ありがとう」


■サラちゃん(左)とヒューくん(右)

翌日、なんとか峠は越したものの、ヒューくんは酷い貧血に襲われます。

「夜に先生から連絡があり、すぐにサラちゃんを連れてきてと言われました」

貧血が酷いためサラちゃんの血液をヒューくんに輸血することになったのです。

奈緒さんは、部屋着のままサラちゃんを抱えて急いで病院へ向かいました。

「サラは訳が分からないままで、大層怒っていました(笑)」

すぐに輸血が行われ、サラちゃんのお陰でヒューくんは危機を脱しました。

状態の良くなったヒューくんが目を開けて奈緒さんを見上げた時は大変驚いたそうです。

「ただ目を開けている、そんな当たり前のことがこの時はほんとに嬉しくて。娘と喜び合いました」

ヒューくんの入院中、先生に許可を得て奈緒さんは毎日面会に行っていました。

「面会に行くと、帰り際にヒューが寂しがるかもしれないとも思いましたが、私自身が居てもたっても居られなくて通い続けました。ヒューのそばには、お気に入りの毛布と家族の写真を置かせてもらってヒューが寂しくないようにしていました」

こうしてヒューくんは8日間の入院ののち、無事に退院することができたのです。

自宅での治療開始

退院してからは自宅での治療が開始しました。

食事療法に加え、朝晩とご飯の時にインスリン注射を打っています。

愛猫に注射を打つということは素人にとって技術的にも精神的にも簡単なことではありません。

ですが、奈緒さんはこう思ったそうです。

「不安は全くなかったです。なんとか峠を越したヒューの命を守るために必死でした。注射で生きることができるならします!という思いでした」

インスリン注射について

インスリン注射については飼い主さんがご自身でインスリン量を調整して打つ場合もありますが、ヒューくんは病院の通院を定期的に行うことでインスリン量を決めています。

血液検査をして先生から次の通院までのインスリンの量を指示してもらっています。

血糖値の値が良ければ1か月開けての通院、数値が悪ければ2週間、低血糖になりそうであれば1週間後に通院しています。

通院が多いと病院嫌いな猫さんにとっては辛いでしょうが、ヒューくんの場合はどうなのでしょう。

「数年前までは病院に連れていかれることを察すると隠れたり抵抗したりしていましたが、最近は年のせいか、それとももう観念したのか比較的おとなしくキャリーに入ってくれます。採血する時も先生から、いい子だねと褒められるほどおとなしくて、とても助かっています」

毎日のインスリン注射は、針を刺す部分とインスリンの蓋部分を消毒した後に注射器でインスリンを吸い空気を抜いた後に刺していきます。

「食べ終わってからのほうが良いとは聞いていたのですが、ヒューが動いてしまうのでご飯を3分の2くらい食べたところを見計らって注射をしています。空気を抜くのが毎回苦労しますが、注射を刺すことには慣れました」

同じ場所に注射を打ち続けると皮膚が固くなるため、場所を変えながら打つことに気を付けているそうです。

猫へのインスリン注射では低血糖にならないよう十分に注意しなければなりません。

それもあって、ご飯をあまり食べない時はインスリンの量を減らすよう言われています。

しかしヒューくんはいつもしっかりとご飯を食べているのでそういった心配も少ないようです。

ただそれでも血糖値の上がり下がりはよくあり、症状としては現れにくいヒューくんの場合は見極めがとても難しく、病院での血液検査で気づくことが多いそうです。

糖尿病治療にかかる費用

月に換算すると1万円弱くらいだそうです。

「インスリンは1本10,560円ですが、だいたい2か月ほど持ちます。インスリンを買う月は高くなるものの、血液検査だけの場合は3,300円で済みますし、注射器は100本入りで6,600円なので、1日2本使って50日持ちます」

現在のヒューくんの状態

食事療法とインスリン注射はしなければいけませんが、毎日元気に過ごしているそうです。

「ご飯もしっかりと食べ、イケメン台無しの格好で寝て、たまに猫の妹たちと追いかけっこをしたりしています。そんな姿を見ると注射を打つ以外は元気な子と変わりないな、と思います」

インスリンがしっかりと効いているようで、再びの入院もこれまでないそうです。

取材の最中には歯槽膿漏が発覚したヒューくんですが、糖尿病ともうまく付き合えているのですから他の病気も吹き飛ばしてくれるのではないかと思います。

愛猫の闘病、奈緒さんの意識の変化

ヒューくんが糖尿病になったことで、奈緒さんは健康のありがたみというものを再認識したそうです。

「元気でいてくれることは当たり前じゃないのだと気づかされました。今日も一日生きていてくれてありがとう!と夜寝る前に感謝しています」

年齢を重ねるにつれて、人間と同じように猫も健康トラブルが増えていきます。

奈緒さんもヒューくんがなるべく病気にならないよう、食べるもの、体重、ストレスなどには十分注意するようにしています。

糖尿病の愛猫を抱えている飼い主さんへのメッセージ

「大切な我が子が糖尿病と診断されたらとても不安ですよね。この病気は長期戦になる事が多いので、まずは飼い主さんの体調を整えてお世話してあげてください。注射は猫も人間も慣れるので大丈夫です。糖尿病になってしまっても変わらずかわいい子です。むしろ頑張って生きてくれているのだな、と余計に愛しく思います。糖尿病を抱える猫の飼い主さん、一緒に頑張っていきましょう」

まとめ

糖尿病の中で大変恐ろしいといわれるケトアシドーシスと闘ったヒューくん。

奈緒さんご家族やサラちゃんの助け、そして何よりヒューくんの頑張りで命を取り留めました。

愛猫の病気と闘うには飼い主が心と体を整えておくことも大切ですし、何より家族である猫を愛する気持ちが病気に打ち勝つ薬となるのかもしれません。

14歳になり寝ていることが多くなったヒューくんですが、たくさん食べて窓辺で日向ぼっこをして、時に妹分の桃乃ちゃんと窓際で寝て、起きている時は別の妹分シェリーちゃんをグルーミングしてあげてと忙しい毎日を送っているようです。

これからもヒューくんの闘病は続くかもしれませんが、ご家族と過ごす時間がヒューくんを癒してくれるのではないでしょうか。

最後に、奈緒さんは何かいつもと違う様子を感じたらすぐに病院へ連れていってほしいと訴えていました。