犬の驚くべき嗅覚を解説!メカニズムや嗅覚の高い犬種ランキングも

犬は長い歴史の中で、使役犬として人間とともに歩んできました。
持ち前の高い身体能力を活かし、猟犬や牧羊犬などとして今なお私たちの生活に役立ってくれています。
数ある犬の能力の中で、特筆するべきは嗅覚です。
人間よりもはるかに優れた嗅覚を持つ犬は、私たちが到底嗅ぎ分けられないような情報を察知して知らせてくれます。
今回は、犬に秘められた素晴らしい嗅覚についてご紹介します。
犬の嗅覚のメカニズムや鼻が利く犬種なども紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください!
犬の嗅覚は人間の何倍?驚くべき能力
犬の嗅覚はなんと人間の〇倍!
犬の嗅覚は非常に鋭いといわれていますが、数値化すると人間の何倍くらいだと思いますか?
1万倍?10万倍?正解は……なんと100万倍~1億倍です!
もちろん犬種や個体差、後天的なトレーニングによっても異なりますが、1億倍と聞くとイメージするのも難しいほど膨大な数値ですよね。
私たちが普段生活しているこの世界は、犬にとっては匂いの情報であふれていることになります。データによると、8kmも先にいる発情期の雌犬のフェロモンを嗅ぎ分け、追いかけた例もあるそうです。
犬の嗅ぎ分けは「濃さ」ではなく「敏感さ」
本来、犬の嗅覚は距離で測れるものではありません。嗅覚の基準となるのは「敏感さ」です。
人間の1億倍と聞くと「あらゆる匂いを1億倍の濃さで嗅いでいるの?!」と思ってしまいますが、実はそうではありません。犬の嗅覚の素晴らしさは、その「敏感な嗅ぎ分け能力」にあります。
犬は一つの匂いを1億倍濃く感じるのではなく、一つ匂いが1億分の1の薄さになっても嗅ぎ分けられるのです。例えばある液体の匂い(人間が知覚できる濃さ)を覚えたら、その液体を1億倍に希釈しても嗅ぎ分けられます。
自分が生きていくために必要な匂いに敏感
犬の嗅覚は生まれつき機能しており、成長とともにさらに発達します。中でも自分が生きていくために必要な匂いには特に敏感です。
反対に「自分が生きていくのに関係ない匂い」を嗅ぎ分ける能力は低い傾向にあります。
犬が敏感に嗅ぎ分ける匂い
犬が敏感に嗅ぎ分ける匂いは、食べ物や他の動物、人間、水などが挙げられます。これらは生命維持に直結するため嗅ぎ分け能力が高く、犬の嗅覚は自分の身を守るために発達した能力といえるでしょう。
人間の1億倍の嗅覚で食べ物の匂いを感知できるとなると、隣の部屋でコッソリお菓子を食べてもすぐにバレてしまうのも頷けます……!
犬の嗅覚のメカニズム
人間にはない「ヤコブソン器官」で匂いを嗅ぎ分ける
犬の鼻にあるヤコブソン器官は、人間では退化してしまった器官です。
ヤコブソン器官の役割は、人間には嗅ぎ取れないようなフェロモンを嗅ぎ分けることです。
「フェロモンの匂い」なんて、人間には到底想像できませんよね。しかし犬はこの匂いを見事に嗅ぎ分け、発情期の個体を探し出します。
犬のヤコブソン器官は、種の存続のために発達したのです。
嗅細胞がある場所の面積が人間よりも大きい
犬の嗅覚の素晴らしさをわかりやすく説明するために、鼻と匂いの仕組みについて解説します。
空気中にある匂いの成分は、犬の鼻を通って鼻腔に到達します。鼻腔内には嗅上皮という粘膜部分があり、嗅上皮にある嗅細胞が匂いを感知するのです。
つまり、嗅上皮の表面積が大きい犬は嗅細胞の数が多いため、匂いに敏感といえます。
犬の嗅上皮の面積は、16~150平方センチメートルです。人間の2~4平方センチメートルと比べると、比べものにならないほど大きいことがわかります。人間の嗅上皮はおよそ1円玉サイズ、犬は千円札1枚分のサイズと考えると差がわかりやすいでしょう。
人間との嗅覚の違いは、「匂いを感知する嗅細胞の数が多い」ことによるといえます。
鼻が長い犬種のほうが鋭い嗅覚を持つ
嗅上皮の形状は、鼻の穴の構造に左右されます。
一般的に鼻の長い犬種のほうが嗅上皮の表面積は大きく、鼻が短い犬種のほうが小さくなります。
そのためパグやブルドッグのようないわゆる「ペチャ顔」の犬種よりも、ダックスフンドやドーベルマンのようなシュッとした鼻先を持つ犬種のほうが、より匂いに敏感といえるでしょう。
犬の嗅覚を活用した使役犬の例
警察犬
警察犬の仕事はさまざまですが、嗅覚を活用している警察犬といえば「跡追及犬(せきついきゅうけん)」と「臭気選別犬」です。
テレビで事件を捜査している警察の映像が流れたときに、警察犬が映っていることがありますよね。あれらのほとんどが、跡追及犬か臭気選別犬の2種類に該当します。
跡追及犬は、事件現場に残った犯人の遺留品の匂いを嗅ぐことで居場所を追求する犬です。犯人を捜すだけではなく、被害者の持ち物の匂いを嗅いでいち早く被害者を見つけ出す役割も担います。
臭気選別犬は、逮捕された容疑者と現場に残された証拠の匂いが一致するかどうかを確かめる犬です。一致した場合は重要な証拠となり、裁判でも利用できる信頼性のある情報となります。
麻薬探知犬
麻薬探知犬も警察犬の一部ですが、実際に事件が起こった後に活躍する跡追及犬や臭気選別犬とは違う特徴があります。
麻薬探知犬は、麻薬を国内に持ち込ませないように見張るのが役目です。
映画やニュースで見たことがある人も多いと思いますが、空港の税関にも常駐しています。
麻薬探知犬は、麻薬の匂いを嗅ぎつけたらすぐに職員に報告するようにトレーニングを受けています。
麻薬探知犬が活躍しているからこそ、違法な薬物の輸入を未然に防止できるのです。
災害救助犬
災害救助犬はレスキュードッグとも呼ばれる、地震・台風・土砂崩れ・雪崩・洪水などの災害で行方不明になった人を捜索する犬です。
優れた嗅覚とあらゆる災害現場を想定した身体能力・精神力が求められ、人命を救うために特別な訓練を受けています。
日本では公的機関に所属する災害救助犬はほとんど存在しておらず、NPO法人である災害救助犬団体が活動の中心となっています。
害獣駆除犬
害獣駆除犬は、人間の生活を脅かす野生動物を駆除する犬です。
猿を駆除する「モンキードッグ」や熊を駆除する「ベアドッグ」が代表的でしょう。
危険な野生動物を相手にする仕事であるため、常に一定の危険が伴います。そのため基本的には小型犬よりも大型犬のほうが向いています。
実践では野生動物の糞や尿などの臭いを嗅ぎ分けながら野生動物との距離を縮め、大きな声で吠えたてて森の奥に追いやったり、野生動物の存在をいち早く知らせてスタッフの安全を確保したりします。
嗅覚の鋭い犬種ランキング
3位:ジャーマン・シェパードドッグ
ジャーマン・シェパードドッグは、世界中で警察犬として活躍する犬種の一つです。人間の4,000万個と比べてはるかに多い2.25億個もの嗅細胞を持ち、抜群の嗅覚を誇ります。
長い鼻先を利用して地面の匂いを嗅ぐのが得意で、嗅覚だけではなく勇敢さや服従心の強さから人間のよきパートナーとして活躍し続けています。
訓練を好む性格のため災害救助犬としても優秀で、さまざまな領域で活躍できる犬種です。
2位:ビーグル
ペットとしても身近な犬種であるビーグルですが、実はジャーマン・シェパードドッグに匹敵する2.25億個の嗅細胞を持っています。
判断力と運動能力が高く、とくに麻薬探知犬として優秀です。
関税局で働くその姿は「小さな取締官」とも呼ばれ、可愛い見た目とは裏腹に研ぎ澄まされた嗅覚を使って活躍しています。
1位:ブラッドハウンドドッグ
すべての犬種の中で最も優れた嗅覚を持つといわれているのは、ディズニーキャラクターの『プルート』のモデルにもなったブラッドハウンドドッグです。
ブラッドハウンドドッグは、ジャーマン・シェパードドッグやビーグルよりも更に多い3億個もの嗅細胞を持っており、非常に鋭い嗅覚で活躍します。
ビーグルの鋭い嗅覚も、ブラッドハウンドドッグの血が混ざって生まれたからこそといわれています。
特筆すべきは、オランダやポーランドにおいて導入されている「セント・ラインアップ」という捜査方法です。現場に残された匂いをブラッドハウンドドッグが嗅ぐことで、犯人が誰かをサポート役のハンドラーに伝える手法です。
セント・ラインアップによって確定した情報は、ブラッドハウンドドッグが行ったものだけが裁判所で証拠として認められます。
犬の嗅覚は衰える?
加齢による衰え
人間と同じように、犬も加齢によって嗅覚が衰える可能性があります。
一般的に犬の老化は外見の変化から始まり、次に体力、視覚、聴覚、嗅覚の順に衰えていくといわれています。
嗅覚の衰えで食欲にも変化が
犬は食事の際に、味覚と同等に嗅覚からの情報も重要視します。そのため、嗅覚が衰えると食欲も減退する犬が多いです。
とはいえ、実際に食べ物が口の中に入ると美味しさを感じて食べてくれる場合もあります。
食欲は味覚と嗅覚、そして食感を感じる触覚と密接な関係があり、第一印象となる嗅覚が衰えることで口を付けなくなってしまうこともあると覚えておきましょう。
トレーニングで嗅覚アップも可能
老化や病気による嗅覚の低下は避けられませんが、トレーニングをすることで嗅覚を維持・向上させることもできます。
嗅覚を使ったトレーニングは「ノーズワーク」と呼ばれ、食べ物や匂いを探し当てるゲーム形式であることが多いです。
部屋にフードやおやつを隠して探させるノーズワークは嗅覚と好奇心を刺激し、ストレス解消にも役立ちます。
犬の嗅覚の衰えを感じたらまず病院へ
犬の嗅覚の衰えは、加齢によるものであれば自然な現象といえます。しかし年齢を重ねた犬の体質変化は、加齢によるものなのか病気が原因なのか判別が付けづらいものです。
とくに犬の三大死因である「悪性腫瘍・心臓病・腎不全」は、病症の進行過程で嗅覚を衰えさせます。いずれも完治がない病気であるため、早期発見と治療が重要です。
老犬はもちろん、若い個体であっても犬の嗅覚に異常を感じたらできるだけ早く動物病院を受診するように心がけましょう。飼い主さんの気付きと判断が、愛犬の健康な心身を守ります。
まとめ
今回は、犬の嗅覚の仕組みや特徴についてご紹介しました。
優れた嗅覚をもって人間の役に立ってくれる犬たち。ペットとして飼育する中でも、飼い主さんの匂いをいち早く感じ取って出迎えてくれる姿は愛おしいですよね。
犬が生きている世界では、私たち人間には感じられない「匂いの情報」であふれています。
犬を思いやり、過ごしやすくストレスのない環境を整えてあげましょう。