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【元動物看護士が解説】「犬の肛門腺絞り」やらないといけない!は勘違い?犬の肛門腺について知っておこう

芝生で寝そべる犬のお尻

今回は犬にある「肛門腺」と呼ばれる、においの強い分泌腺について解説します。

聞き慣れない言葉かもしれませんが、肛門腺から病気になることもありますので、ぜひ知っておいてくださいね!

肛門腺とは?

地面に伏せた柴犬のお尻

肛門腺とは、人にはない、犬や猫などが持つ分泌腺の一つです。

肛門の左右に肛門嚢(こうもんのう)と呼ばれる一対の袋状の組織があり、これを肛門腺と呼んでいます。そのため「肛門腺=肛門嚢」と考えてOKです。

「分泌腺」「袋状」といった言葉から汗腺などをイメージする方もいるかもしれませんが、構造的にはほぼ同じでここから分泌液が出ます。

ただし肛門腺から出る分泌液は非常に臭いうえに、一度手や服などに付いてしまうと簡単にはにおいが取れません!

肛門腺の場所は?

犬の肛門腺を示した図

肛門腺の場所は上の図で示した通り、時計に見立てると肛門から4時と8時の方向にあります。皮膚表面から少し奥まった位置にあるため、外から見ただけではわかりません。

なお肛門腺は直腸と繋がっていて、分泌液は直腸を通って肛門から排出されます。

肛門腺は何のためにある?

肛門腺は、においによる個体の識別をするためにあります。

犬や猫が互いのお尻のにおいを嗅ぎあうシーンを見たことがありませんか?

あれは肛門腺からの分泌液を嗅いで「あなたのにおいはコレね」と情報をインプットする行為です。

ちなみにスカンクは防衛手段として分泌液を使います。

「スカンクのオナラは臭い」と言われることがありますが、実は身を守るために肛門腺の分泌液を飛ばしているのです。あまりの臭さに肉食獣も逃げると言われています。

話が少し逸れましたが、肛門腺はそれを持つ動物たちにとってコミュニケーションのための道具であるといえます。

肛門腺の分泌液の色や形状、においは?

ここまでの説明で、肛門腺の分泌液はどのようなにおいがするのか気になる方もいるでしょう。

実はにおいは個体によって微妙に違い、以前勤務していた動物病院では「卵が腐ったにおい」と表現することもありました。

こればかりは実際に嗅いでみないことには知ることができないため、機会があれば動物病院などで愛犬の肛門腺を絞ってもらってみてくださいね。

そして色や形状についても、においと同じで個体ごとに少しずつ違います。

色は便のような薄茶色から灰色がかった色もありますし、形状はサラッとした液状のものから半固形のニュルッとしたものもあります。

気になる肛門腺の疑問Q&A

犬のレントゲンを見る獣医師

【疑問1】肛門腺絞りって何?何のためにするの?

肛門腺について少しずつわかっていただけたと思いますが、「別に知らなくても困ることはないんじゃない?」と思う方もいるかもしれません。

しかし肛門腺から生じる病気もあり、その病気を防ぐために「肛門腺絞り」と呼ばれるものがあることは知っておいたほうがよいでしょう。

肛門腺絞りとは、文字通り肛門腺に溜まる分泌液を絞り出すことを指します。分泌液を出すことを、動物病院などでは「肛門腺を出す」と表現することもあります。

肛門腺の病気はこの分泌液に細菌感染が起きる、または分泌液が過剰に溜まってしまうことが原因です。

もしこれらの病気や原因を知らないと対処法がわからず慌てふためくことになり、悪化を招くことにもなります。

【疑問2】肛門腺に関する病気は危険なの?

肛門腺に関する病気には、代表的なものとして以下の2つがあります。

・肛門嚢炎
・肛門腺破裂(肛門嚢破裂)

詳しくは後ほど説明しますが、いずれの病気も命に関わるようなものではありません。

しかし痛みや痒み、不快感を伴い、犬の元気・食欲は低下してしまいます。

【疑問3】結局のところ、肛門腺は絞らないとダメなの?

「肛門腺に分泌液が溜まり過ぎるのはよくないなら、絶対に絞らないとダメだよね?」と思うかもしれませんが、そうとは言い切れません。

なぜならこの分泌液は排便時に一緒に出るからです。

ここで気になるのが「すべての犬が排便時に出せるのか?」ですが、私がこれまで動物病院に来ていた子を見る限り、ほとんどの子は出せていると思われます。なぜなら肛門嚢炎や破裂は年間を通して数える程度しかいなかったからです。

もし排便時に上手に出せていない場合、分泌液が溜まるため肛門あたりに違和感を覚えます。

そうなるとお尻を自分で舐めたり噛んだり、「お尻歩き」と言われる地面にお尻を擦り付けるような行動をとったりします。

その場合は排便時に分泌液を出せていない可能性が高いので、定期的に絞ってあげる必要があるでしょう。

逆に言えば、溜まっているそぶりを見せない子はしっかり出せていることになります。

肛門腺を絞る方法

庭で子犬と遊ぶ男性

飼い主が絞る

肛門腺を絞る方法は、以下の通りです。

肛門腺の絞り方を示す図

(1)利き手ではないもう一方の手でしっぽを持ち上げ、肛門がよく見えるようにする
(2)上図の黒いラインを目安に利き手の親指と人差指(中指も同時使ってもよい)の指先をグッと押し当てる
(3)肛門腺は袋状で少し奥まった場所にあるため、押し当てた親指と人差指を肛門に向かって絞り上げる

初めてやるときは力加減が難しいので要注意です。強く絞り上げる必要がありますが、強過ぎると犬が痛みを感じ嫌がります。また分泌液は液状であったり半固形であったりするため出しやすさも違います。

絞るのに成功すると肛門から勢いよく飛び出すことがあるため、ティッシュを当てながら行うか、風呂場や外で行うようにしましょう。決して覗きこんだり、肛門の後ろに立ったりしてはいけません!

肛門腺を絞るにはちょっとしたコツが必要になるため、絞れる人に実践を通して教えてもらうとよいでしょう。

トリミングや動物病院で絞る

トリミングサロンや動物病院で絞ってもらう方法が一番おすすめです。

トリミングを定期的に利用しているならば、シャンプー時に肛門腺をチェックしてくれるため安心です。

動物病院では依頼がなければ行いませんが、爪切りや耳掃除も兼ねて来院される方は多くいました。

自分でチャレンジしたい方は、このタイミングで絞り方を聞いておくとよいでしょう。

犬自身が絞り出す

散歩中に立ち止まるトイプードル

多くの犬は、自分で分泌液を出すことができます。

ただ傾向として、大型犬に比べて小型犬は自力で出せない子の割合が多いようです。

排便時に力むことによって肛門周りの筋肉が締まり、その過程で分泌液が排出されます。

小型犬はその力が弱いため上手く出せないケースがあるのでしょう。

肛門腺を絞る頻度

犬の尻尾をトリミングする女性

肛門腺を絞る頻度はその子によって違います。

自力で出せる子は基本的に絞らなくても大丈夫ですし、トリミングに定期的に通っていればそれで十分でしょう。

それでも不安な場合や上記にあてはまらない場合は、定期的に絞ってあげてください。1ヶ月から2ヶ月くらいを目安にするとよいです。

その目安で絞っているにもかかわらずお尻を気にするなど肛門腺が溜まっている様子が見られれば、間隔を短くしてその子にあった頻度を見つけてあげましょう。

肛門腺を絞る行為は、敏感な場所ということもあり、犬にとって気持ちのよいものではありません。あまり頻繁に絞ることは避けてください。

肛門腺に関する病気

エリザベスカラーをつけたパグ

肛門腺を上手く出せず過剰に溜まってしまう、あるいは何らかの原因で肛門腺に炎症が起こってしまうことがあります。

その場合には治療が必要になるため、気付いてあげるべき症状と治療法についてお伝えします。

肛門嚢炎の症状と治療

肛門嚢は袋状の組織で、その中に粘度高めな分泌液が溜まります。

これが上手く出せない場合、溜まった分泌液に細菌感染が起こり、肛門嚢に炎症を引き起こした結果生じる病気です。

炎症があるためにお尻に違和感を覚え、肛門付近を舐める、噛む、お尻を床に擦り付けるといった行動が見られます。

また肛門嚢に分泌液が溜まっているため、肛門の少し下の辺りが腫れているように見えることもあります。

治療法は溜まっている分泌液を絞り出し、抗生剤で細菌感染を抑え、舐められないようにエリザベスカラーを装着します。

もし症状に気付かずに治療が遅れた場合、次に説明する肛門腺破裂へとつながってしまいます。

肛門腺破裂の症状と治療

肛門嚢炎が進行すると、風船が破裂するように肛門嚢が破けてしまいます。

そうなると膿となった分泌液や血が肛門から出てきて、食欲低下や発熱、元気消失といった症状も同時に見られます。

治療方法は肛門嚢炎と同様ですが、破れてしまっているために治療には時間がかかります。

そのため再発を繰り返すような場合には、肛門嚢を取る外科手術も選択肢に入ります。

まとめ

匂いを嗅ぎ合う三頭の犬

肛門腺は犬同士がコミュニケーションを行うために必要なものです。

ただし溜まり過ぎてしまうと病気に繋がるため、犬は排便時に少しずつ排出しています。

基本的にはそれで溜まり過ぎてしまうのを防げますが、中には上手く出せずに溜まってしまう子もいます。溜まったときの犬がとる行動や症状を普段から見逃さないようにしましょう!