【致死率100%】狂犬病ってどんな病気?初めてでもわかりやすい狂犬病の解説
犬の飼い主が毎年1回必ず受けさせなくてはいけない、狂犬病ワクチン。
「狂犬病は恐ろしい病気だ」と漠然と理解している人は多いかと思いますが、具体的にどのような症状が現れるかはご存じでしょうか?
狂犬病は、致死率100%の非常に恐ろしい病気です。
今回は、狂犬病の症状や原因、予防のために私たちができることなどをご紹介します。
正しい知識を身に付けて、人と犬の安全な未来へとつなげていきましょう。
狂犬病ってどんな病気?
ウイルス性の人獣共通感染症
狂犬病は、狂犬病ウイルスを病原体とするウイルス性の人獣共通感染症です。
人獣共通感染症とは、脊椎動物と人間の間で感染する病気を指します。
つまり狂犬病は、犬だけではなく人間も発症する病気です。
ウイルスを持った動物に噛まれることで唾液から感染する場合が多く、ウイルスが神経系を介し脳神経組織に到達して発病します。
狂犬病の主な症状
狂犬病の症状は、段階を踏んで進行します。
最初期では発熱や頭痛など風邪に似た症状があり、噛まれた部分が治っているにもかかわらず痒みが出る、目がチカチカするなどの症状が出ます。
熱っぽい症状が出た後、急性期には不安感・興奮性・麻痺・精神錯乱などの神経症状が現れます。
この時期に現れる特徴的な症状が「恐水症」です。
「狂犬病は水を怖がる」というイメージが有名ですが、これは水をはじめ液体を飲みこむことによって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを伴うことにより起こります。また、風を避けるような仕草をする恐風症も同時期に現れます。
さらに恐ろしいのが、これらの症状が出ている間は意識がハッキリしているという点です。
急性期では脳細胞は破壊されていないため、水を飲めないことによる脱水の感覚も含めた苦しみを味わわなくてはいけません。
急性期の2~7日後に脳神経や筋肉が麻痺を起こし、昏睡により呼吸障害を起こし死亡します。
感染から発症までに差がある
ウイルスの進行速度は1日数mm~数十mmといわれており、噛まれた場所と脳の距離により発症の速さが変わります。
通常は1~3ヵ月ですが、早ければ噛まれて2週間程度で発症します。
遅い場合は、発症までに2年以上の歳月を有するケースもあります。
確実な治療法がない「致死率100%」の病気
狂犬病は、1度発症すると助かる見込みはなく、致死率100%の病気です。
過去の実験的治療では極わずかな生存例がありましたが、現在も有効な治療法は確立されていません。
繰りかえしになりますが、狂犬病は「発症すれば確実に死亡する非常に恐ろしい病気」なのです。
毎年の死者は世界中で5万人以上
日本に住んでいると、狂犬病の名前を知っていてもどこか遠い存在に感じるかもしれません。
しかし、現在でも世界では狂犬病により毎年5万人以上の死者が出ています。
狂犬病は決して過去の病気ではありません。
今もなお私たち人類を苦しませている難病なのです。
狂犬病に感染する原因
狂犬病は犬に噛まれて発症するイメージが強いですが、狂犬病ウイルスを所持しているのは犬だけではありません。キツネ・オオカミ・アライグマ・コウモリ・ネコなどすべての哺乳類から感染する可能性があります。
多くは噛み傷による唾液感染ですが、傷口や唇などの粘膜を舐められた際にも感染します。
また、角膜移植や臓器移植などの特別な例を除き、人間から人間への感染はありません。
狂犬病の清浄国って?
「清浄国」の定義
狂犬病の撲滅に成功した国を「清浄国」と呼び、清浄国の定義は世界保健機構(WHO)および国際獣疫事務局(OIE)が定めています。
世界には200以上の国や地域が存在していますが、清浄国は10数ヵ国のみで非常に貴重です。
令和元年度第1回国際獣疫事務局(OIE)連絡協議会 議事次第
※狂犬病清浄国・地域については43P参照
狂犬病の清浄国一覧
世界で狂犬病が発症していない国や地域は以下になります。
・オーストラリア
・ニュージーランド
・日本
・フィジー
・キプロス
・ハワイ
・グアム
・アイルランド
・イギリス
・ノルウェー
・アイスランド
またこの中でも、農林水産大臣が日本以外で指定している狂犬病の清浄国・地域は以下になります。
・アイスランド
・オーストラリア
・ニュージーランド
・フィジー諸島
・ハワイ
・グアム
指定地域外から犬や猫を輸入する際は、マイクロチップによる個体識別や狂犬病ワクチンの接種、狂犬病抗体検査などが記載された証明書が必要になります。
日本における狂犬病の歴史
日本もかつては狂犬病で多くの死者が出ていた
現在は狂犬病を撲滅し清浄国となった日本ですが、かつては狂犬病により多くの死者を出しています。
1893年2月には長崎市に外国から持ち込まれた犬を起点に狂犬病が流行し、5月には死者は10名に上りました。
この間、市民により殺された犬は700頭を超えたという記録が残っています。
流行は続き、1894年には山口県を中心に牛や馬などの家畜の被害が拡大しました。
1896年に獣疫予防法が制定されたことにより狂犬病の犬の殺処分が定められ、1897年から全国の狂犬病発生件数が正しく記録されることになりました。
1918年には初めての予防接種が開始されましたが、その後も第一次世界大戦や関東大震災などが起こった混乱期に大流行したことも重なり、多くの人や犬が命を落としました。具体的には、1923年から1925年の2年間に約9,000頭の狂犬病の犬が発生しています。
1950年に「狂犬病予防法」が制定
狂犬病による恐怖への終止符が打たれたきっかけは、1950年に制定された「狂犬病予防法」です。
1885年にフランスの細菌学者であるルイ・パスツールによって開発された狂犬病ワクチンを用い、ワクチンの接種・犬の登録・野犬の管理を徹底しました。
そして1956年の人間と犬、1957年の猫を最後に狂犬病の発症例はありません。今なお世界の人々を脅かす狂犬病ですが、日本はわずか7年の歳月で狂犬病を撲滅したのです。
飼い犬へのワクチン接種は法的義務に
狂犬病予防法に記載があるように、飼い犬への狂犬病ワクチン接種は法的に定められた義務です。
厳しい言い方になりますが、ワクチンを受けさせないことはれっきとした犯罪行為になります。
しかし嘆かわしいことに、狂犬病ワクチンの接種率は年々減少傾向にあります。2020年の接種率は飼い主全体の7割止まりであり、危機意識が低下していることがわかります。
日本では発症の可能性はないとされている狂犬病ですが、近年では外国で犬に噛まれた男性が日本に入国後に発症し死亡したケースもあります。
愛犬のためにも自分のためにも、そして人と犬が共生する未来のためにも、ワクチン接種を徹底する必要があるのです。
もしも狂犬病が日本で広まったらどうなる?
日本では狂犬病が発生したときのガイドラインが定められていますが、もしも100年前の日本のように爆発的に流行してしまったらどうなるでしょうか。
狂犬病ワクチンを接種していない犬は感染の危険があるとされ、家から出せない状態になってしまうかもしれません。
万が一人が感染して発症してしまったら、年齢や性別にかかわらず死は免れません。
また、牛や豚などをはじめとする家畜にも感染が広がると、一次産業は壊滅的な打撃を受けます。
さらに狂犬病はコウモリによる飛沫感染の記録もあるため、安心して外出をすることが困難になるでしょう。
もしも自分の愛犬が他人を噛んでしまい、さらに狂犬病キャリアだと認定されてしまったら……。人と犬が共生する今の日本では考えられない、悲惨な未来が待ち受けています。
狂犬病による最悪のシナリオを回避するために、私たちには何ができるのでしょうか?
狂犬病の再発生防止のためにできること
国内での検疫の徹底
現在は国内で撲滅されている狂犬病ですが、近年はグローバル化が進むにつれてウイルスが持ち込まれる確率は上がっています。
飛行機や船での輸入により狂犬病が侵入する可能性があるでしょう。
そのため日本では、ペットの入国において厳重な検疫を行っています。
具体的には、以下のステップを踏むことが必要です。
(1)出国前にマイクロチップの埋め込み
(2)2回以上の狂犬病予防注射の接種
(3)抗体検査
(4)輸出前待機
(5)日本到着の40日前までに事前届け出の提出
(6)輸出前検査
(7)輸出国の証明書の取得
(8)日本到着後の輸入検査
さらに輸入検査では、最長で180日の検疫期間が必要になります。
このように非常に厳しい順序を踏まなくてはなりませんが、恐ろしい狂犬病ウイルスを絶対に持ち込まないためには必要な手続きなのです。
発生時の迅速な蔓延措置
狂犬病のリスクを最小限に抑えるためには、万が一国内で発症が確認されたときに迅速な対応が求められます。
厚生労働省の「狂犬病発生の疑いがある場合の対応手引書」により定められたガイドラインに従い、感染を広げないための処置が必要です。
自治体への犬の登録
生後91日以上の犬を家に迎え入れたら、飼い始めた日から30日以内に住んでいる自治体で犬の登録を行いましょう。
登録の目的は、犬がどこで飼育されているのかを国が把握するためです。
登録料が約3,000円必要になりますが、登録は生涯に1回のみです。最寄りの動物愛護センターや市町村役場で行うことが可能です。
登録すると「鑑札」と「注射済票」が交付されます。
両方を犬の首輪や身近なものに装着し、接種済みであることをいつでも証明できるように準備しておきましょう。
毎年の狂犬病ワクチン接種
狂犬病ウイルスはいつどこから持ち込まれるかわかりません。もしもの場合に備え、毎年の狂犬病ワクチンを愛犬に必ず接種させましょう。
狂犬病ワクチン接種は飼い主の義務であり、基本的に例外はありません。
ワクチン接種料金は約3,000円で、市町村が行う集合注射会場や最寄りの動物病院で接種が可能です。
まとめ
今回は、致死率100%の恐ろしい感染症である狂犬病についてご紹介しました。
「狂犬病に感染したら必ず死んでしまう」は、決して誇張表現ではありません。
また、過去の病気でもありません。
こうしている今も、世界のどこかでは狂犬病による症状に苦しみ、逃げられない死の恐怖に直面している人がいます。
自分自身の健康、大切な人の健康、そして何よりも愛犬の健康と幸福を守るために、私たちにできることを一つひとつ始めましょう。