「いきなり歯ブラシ」はNG?!猫の歯周病と口内ケアのポイントまとめ
みなさんは愛猫の口内ケアを行なっていますか?
愛猫の歯磨きをしなければと思いつつも、愛猫に本気で嫌がられたり怒られたりして断念した方も多いのではないでしょうか?
2022年2月18日に日本ペット歯みがき普及協会の「歯磨きが苦手な猫のための簡単歯みがき」オンラインセミナーがありました。
そのセミナーに参加し、猫の歯周病についてや愛猫の歯磨きのコツを勉強させていただくことができましたので、今回はセミナーで学んだことを中心に、猫の口内ケアの大切さについてお伝えします。
猫の口内環境は人とは違う
猫の永久歯は30本
猫の永久歯は全部で30本あり、犬歯4本・切歯12本・前臼歯10本・後臼歯4本という内訳です。
人間の場合、80歳になっても20本以上の歯を残そうという「8020運動」が知られていますが、猫の場合は「1530」。つまり、15歳になっても30本すべての歯を残そうというのが目標です。
猫の口内はアルカリ性
人間と猫は口内環境が異なります。人間のお口の中はpH6.5〜7.0の弱酸性ですが、猫はpH7.5〜8.5の弱アルカリ性です。これは、人間と猫の唾液成分が違うことが関係しています。
人間の唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれており、食べ物のデンプンと反応してブドウ糖に変える働きをします。口内細菌のエサとなるのが、このブドウ糖です。口内細菌がブドウ糖を分解すると酸を出すことから、人間の口内は酸性に偏りやすいのです。
一方、猫の唾液にはアミラーゼが含まれていません。口の中にデンプンが入ってもブドウ糖に分解されず、そのまま胃袋に入ります。ブドウ糖が作られないため口内細菌が酸を出すこともなく、アルカリ性を保ちやすいのです。
また、アルカリ性の口内では歯石化が進みやすいため、猫の歯垢は7日ほどで歯石になるといわれています。人間の場合は14日程度です。猫は人間の倍のスピードで歯石ができることになり、注意が必要です。
猫は虫歯よりも歯周病に注意!
口内の菌が作り出した酸によって歯が溶けてしまうことを「虫歯」と言い、虫歯の原因となる菌を総称して「虫歯菌」と呼びます。
虫歯菌の代表格であるミュータンス菌は、酸性の環境が大好きです。人間の口内は弱酸性であるため、ミュータンス菌が好む環境といえます。
一方で、猫の口内はややアルカリ性に偏っているため、ミュータンス菌は増殖しにくい環境です。まったく虫歯にならないとは言えないものの、猫は比較的虫歯になりにくいと言えるでしょう。
猫が気を付けたいのは、虫歯よりも「歯周病」です。
虫歯になりにくいとはいえ、歯垢が歯石になると口内が不衛生になり、歯茎が炎症を起こして腫れたり歯が抜けてしまったりする恐れがあります。
猫の歯周病について
猫の歯周病の原因
歯周病の原因は、歯に付着した細菌です。細菌やその細菌が出す毒素によって歯肉や歯周組織に炎症が起こるのです。
歯に細菌の温床となる歯垢(プラーク)や歯石が多く付着している状態や、歯石などの付着がない場合でも糖尿病などの慢性疾患や猫白血病ウイルス(FeLV)感染症や猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症などによって猫自身の免疫力が低下している状態だと、歯周病になりやすくなります。
歯周病菌はアルカリ性の環境を好むため、口内がアルカリ性である猫は歯周病を発症しやすい生き物です。
猫は歯石化が進みやすいということも、歯周病を発症しやすい理由の一つと言えます。
また、ドライフードよりもウェットフードの方が歯に付着しやすいので、ウェットフードを好む猫の方が歯周病になる可能性は高いです。
歯周病が起こる流れは、以下の通りです。
①歯垢ができる
②歯垢が歯石になる
③歯肉炎が起こる
④歯周組織が壊れる(歯周病発症)
猫の歯周病の最も大きな原因は「歯磨きをしないこと」です。
猫は自分でケアができないため、飼い主さんが愛猫の歯磨きをしてあげる必要があります。
歯周病の症状
猫の歯周病の主な症状は、以下の通りです。
・よだれが多くなる
・食欲が落ちる
・口臭が強くなる
・グルーミングしなくなる
よだれが増えると前足がよだれで濡れやすくなります。前足が異様に濡れているなと感じた場合、歯周病を疑いましょう。
口内環境が悪くなることで強い口臭がするようになったり、歯周病による炎症の痛みで食欲が落ちたり、グルーミングをしなくなったりすることもあります。
グルーミングをしなくなると毛並みが悪くなるため、毛がバサバサになっている場合は歯周病を疑いましょう。
悪化すると口内炎や他の病気になる恐れも
猫の場合、歯周病が進行すると「歯肉口内炎」を起こしやすいと言われています。
歯肉口内炎は他の口内炎と違い、口の奥の方にできやすいのが特徴です。
また、歯周病が悪化すると、鼻水やくしゃみ、顔の腫れなどの症状が見られることもあります。
口の中で増殖した細菌が血流に乗って心臓や腎臓、肝臓などに運ばれると、大きな病気の原因となる恐れもあります。
歯周病は歯や口内だけでなく、全身に関わる病気です。
歯周病の予防方法
歯石は硬く、歯と密着しているため、歯ブラシでは除去できません。
猫の口内は歯垢が歯石になりやすい環境のため、歯石になる前に歯垢を除去することが大切です。
歯の周辺の組織は、一度壊れると完全に元通りにはなりません。そのため、早期発見が大変重要です。
特に口の奥にできる歯肉口内炎は、意識してチェックしてあげる必要があります。
免疫力が落ちると歯周病になりやすいため、寒さやストレスなどに気を付けて体調管理をしてあげることも大切です。
愛猫の口内ケアを始める前に
「いきなり歯ブラシ」はNG!
愛猫の爪切りやブラッシングにも共通することですが、愛猫のケアは「いかに嫌がられずに行うか」が肝になります。
私たち人間も、他人に顔を押さえつけられて歯ブラシを口に突っ込まれたら恐怖ですよね。
特に猫は警戒心が強く、無理強いされることが苦手です。
「歯磨き」という行為の意味がわからない猫に対しては慎重に行う必要があり、いきなり歯ブラシで磨こうとせず段階を踏んで慣れてもらうことがポイントです。
まずは「触らせてもらえる信頼関係」を築こう
口内ケアを行うには、愛猫の顔や口周りを触る必要があります。
愛猫との触れ合いの中で「触らせてもらえる信頼関係」を築くことが口内ケアのファーストステップです。
特にヒゲの辺りや口元はセンシティブな部位なので優しく触れるようにし、少しずつ慣れさせていきましょう。
触れあい→シート→歯ブラシの順で慣れさせよう
愛猫とのスキンシップで触らせてもらえるようになったら、歯磨きシートにチャレンジしてみましょう。
シートに慣れたら、いよいよ歯ブラシを用いた本格的な口内ケアを開始します。
このように、最初はスキンシップによる信頼関係の構築から始まり、シート、歯ブラシと段階を経てステップアップしていくのがポイントです。
愛猫の口内ケアのコツ
愛猫が活発になる時間帯を避ける
愛猫の1日を観察してみると、だいたいのんびりしているのに、いきなりバーンと元気ハツラツになることはありませんか?
我が家では時折、愛猫が残像にしか見えないほど活発になることがあります。猫の年齢が若いほど、1日の中で活発な時間が長いかもしれません。
猫は薄明薄暮性の動物なので、薄暗い時間帯である明け方と夕方に最も活発になると言われています。
ごはんやトイレの前後に活発になる子もいるでしょう。
愛猫の活発な時間帯に歯磨きを行うと怒りに触れ、全力でイヤイヤされる恐れがあります。
愛猫の1日を観察して、愛猫がまったり落ち着いている時間帯に口内ケアを取り入れるのがおすすめです。
歯磨きシートや歯ブラシの匂いを嗅いでもらう
愛猫に歯磨きシートや歯ブラシに慣れてもらうには、匂いを嗅いで確認してもらうことがポイントです。
猫は匂いで安全かどうか確認するため、シートや歯ブラシの匂いを嗅がせて「怖くないよ、安全だよ」と伝えましょう。
歯磨きシートは指にグルグル巻きにしない方が◎
歯垢を除去する歯磨きシートは、人間が使うウェットティッシュのような形状で、飼い主さんが人差し指に巻いて愛猫の歯を擦るようにして使います。
猫の口はとても小さいので、指にグルグル巻きにすると厚みが出てしまい、猫に負担がかかり嫌がられやすいです。
歯磨きシートは指に1回絡めるイメージで使用するとよいでしょう。
歯ブラシは濡れた状態を保つと歯垢が取れやすい
歯ブラシはシートよりも効果的に歯垢を除去しやすく、歯茎へのマッサージ効果で血流もよくするケアグッズです。
歯ブラシは小さくて柔らかい毛先のものを選んであげましょう。
歯ブラシは濡れた状態の方がより歯垢を絡め取りやすいので、水で濡らしながら歯磨きをするのがおすすめです。
猫に使用できる歯磨きペーストを使うのもよいですね。
愛猫が嫌がる手前で止める
全部の歯をピカピカにしてあげたいところですが、歯磨きに慣れるまでは「本気で嫌がる手前で中断する」のがコツです。
嫌がっている状態で続けると猫が興奮してしまい、口の中を傷つけてしまう危険があるため注意しましょう。
嫌がりそうと感じたら中断し、愛猫の気持ちが鎮まったら再開するのがポイントです。
おやつは効果的に使う
愛猫が嫌がりそうなタイミングでおやつをあげると、気を紛らわせることができ効果的です。
とはいえ、おやつはあくまでも補助として活用しましょう。
「おやつありき」になってしまうと、おやつがないと気を許してもらえない状態になってしまい、愛猫と飼い主さんのコミュニケーションのためになりません。
愛猫にとっては、飼い主さんに撫でてもらうことや褒めてもらうことも立派なご褒美になります。
おやつがなくても歯磨きを許してもらえる状態が理想的ですね。
日本ペット歯みがき普及協会のセミナーを受けた感想
今回、日本ペット歯みがき普及協会のセミナーを受けて、改めて猫の口内ケアの重要性を感じました。
登壇されたのは、協会の代表理事である赤津徳彦さん、理事の獣医師・石野孝先生、同じく理事のドッグトレーナー・須崎大さんです。
獣医学的な知識や視点のほか、猫との接し方という視点からも愛猫の口内ケアのポイントを知ることができ、大変勉強になりました。
一度なってしまうと獣医師でも完治させるのが難しいのが歯周病の怖いところです。
獣医師はそのことを痛感しているからこそ、飼い主さんに愛猫の口内ケアを意識してほしいと願っているのでしょう。
また、セミナーの中で須崎さんがおっしゃっていた、「やらなきゃいけないではなく、お互い楽しく行うことが大切」「愛猫にありがとうと声掛けしながら行いましょう」という言葉が印象的でした。
猫の歯磨き及び口内ケアは、丁寧に信頼関係を構築することが重要ですね。
まとめ
猫は歯周病になりやすいということを、多くの飼い主さんが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
しかし、愛猫の性格をよく知っているからこそ、難しいと諦めてしまっている飼い主さんもいるのではないかと思います。
猫の口内環境は人間と違い、歯垢はたったの7日で歯石になってしまいます。
また、歯周病によって炎症が起こると口臭が強くなったり歯が抜け落ちたりするだけでなく、心臓や腎臓などに菌が回って病気の引き金になる恐れもあります。
愛猫が痛みでウマウマを楽しめなくなるのは悲しいですよね。
「いきなり歯ブラシ!」ではなく、まずはスキンシップから初めて徐々に歯磨きに慣れていくことがポイントです。
まずは口元を触れるようになる、シートをお口にタッチするだけ、歯1本からというように、段階を踏んでぜひ愛猫の口内ケアにチャレンジしてみてください♪