キャリアチェンジ犬とは?盲導犬になれなかった犬はどうなるの?キャリアチェンジ犬飼育ボランティアになるには?
人間にとって「第二の人生」とは、転職や出産などのライフスタイルの変化を指しますよね。
実は、犬にも「キャリアチェンジ」という名の新たな人生の出発があります。
今回は、盲導犬に不向きと判断された「キャリアチェンジ犬」についてご紹介します。
盲導犬候補として訓練されてきた犬ならではの特徴や、キャリアチェンジ犬の受けいれについてチェックしてみましょう。
盲導犬やキャリアチェンジ犬への理解のためにも、ぜひお役立てください。
「キャリアチェンジ犬」とは?
キャリアチェンジ犬とは「盲導犬になるために訓練センターに入ったが、盲導犬としては不向きと判断され、第二の人生を歩むことが決定している犬」のことです。
盲導犬になるために生まれてきた犬は、1歳になるまで「パピーウォーカー」と呼ばれるボランティアの家庭で育ち、社会化を学んだ後に訓練センターに入ります。
訓練センターでは、本番を想定する歩行を含めたさまざまな訓練を行い、最終的に「盲導犬になれる」と判断するまでに合計3回の評価試験を行います。
3回目の評価で盲導犬の素質が判断されますが、実際に盲導犬になれる犬は全体の3~4割しかいません。
残りの「元・盲導犬候補」の犬たちは、キャリアチェンジをして別の人生を歩むことになるのです。
また、キャリアチェンジ犬は主に盲導犬に不向きだった犬を指しますが、聴導犬や介助犬などとして育成・訓練をされてきた犬を指すこともあります。
キャリアチェンジの主な理由
活発すぎる
盲導犬はペットとして可愛がられる愛玩犬ではなく、使用者の目の代わりとなりともに生きる「体の一部」です。
いかなる場合も冷静に落ちついた行動・判断をする必要があるため、好奇心が旺盛だったり注意力が散漫だったりする性格の場合、盲導犬には向きません。
訓練士による訓練を受けても改善が難しい場合、キャリアチェンジ犬と判断されます。
動物や人を怖がる
人の性格が千差万別であるように、犬の性格もそれぞれです。
子犬時代から人とのコミュニケーションを経験していても、生まれつき怖がりな性格の子もいます。
盲導犬は使用者を危険から守る役割もあるため、動物・人・社会に恐怖心を持っている子は盲導犬に向きません。使用者の安全よりも自分の恐怖心を優先してしまう可能性があるからです。
警戒吠えをする
「盲導犬は一切吠えない」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、親しい人が訪ねてきたときや突然尻尾を踏まれてしまったときなどには吠えることもあります。
とはいえ、些細なことでも警戒し吠えてしまう子は盲導犬になることはできません。
路上で犬や猫に会ったときも毅然とした態度で無視できるようでなければ、盲導犬に不向きと判断されるでしょう。
身体的健康面でクリアできなかった
性格や社交性はクリアできても、健康面で盲導犬にはなれないと判断されるケースがあります。
キャリアチェンジと判断される疾患は、主に以下の3つです。
■皮膚疾患
アレルギー性皮膚炎・免疫性疾患・ホルモン性疾患など
■頻尿
膀胱炎・慢性腎不全・糖尿病など
■股関節形成不全
股関節の緩みが原因となり、股関節が異常に形成される病気
使用者の目となり人も犬も安全に生活をするためには、心身が健康な状態でなくてはいけません。
健康面でキャリアチェンジをする場合は、飼育をしながら治療を受けさせることが多いでしょう。
キャリアチェンジ犬の特徴
十分に訓練されていない
キャリアチェンジ犬は、盲導犬としての訓練を受ける過程で、評価試験までに「盲導犬として適切な姿勢がある」と判断されなかった犬たちです。
そのため、活発さや子供っぽさが残っていたり警戒吠えをしてしまったりする可能性があります。
家庭犬としては問題ない
盲導犬としては適格ではないと判断されたキャリアチェンジ犬ですが、家庭犬として飼育する分には問題ありません。
多くは元気いっぱいの「普通の犬」であり、一定以上の社会化や基本的な躾はすでに完了しています。
元気いっぱいな性格が多い
キャリアチェンジ犬は、持ち前の活発さにより盲導犬には不適切と判断された子が多いため、好奇心旺盛ではつらつとした性格の子が多い傾向にあります。
多くの人に愛情を注がれてきた
キャリアチェンジ犬は、子犬の頃から多くの人に囲まれたくさんの愛情を受けています。
そのため、一般家庭で育った犬よりもコミュニケーション能力が高く、「人間大好き!」な子が多い傾向にあります。
犬種は「3種類」のみ
日本で活躍する盲導犬は、以下の3種類です。
・ラブラドールレトリバー
・ゴールデンレトリバー
・上記2犬種を親に持つミックス犬
そのため、キャリアチェンジ犬もこの3種類に限定されます。
盲導犬になれなかった犬の未来
盲導犬PR犬
盲導犬になれなかった犬の中には、盲導犬の普及・啓発活動として活躍をするための「盲導犬PR犬」になる子がいます。
街でのイベントや募金活動などでイメージ犬として参加し、普段盲導犬に馴染みがない人たちに存在を認知してもらう役割を担います。
介助犬
目が見えない人のパートナーになるには素質が不十分だと判断された犬でも、「手や足に障がいがある人の手助け」は十分にできることもあります。
その場合、盲導犬ではなく、肢体不自由者の手足となる「介助犬」として再出発します。
介助犬として使用者の日常動作を手助けし、社会とのつながりをサポートすることになるでしょう。
キャリアチェンジ犬飼育ボランティアに引きとられる
盲導犬PR犬や介助犬などのように使役犬(人間のために利用される犬のこと。牧羊犬や警察犬なども含む)として活躍する犬もいますが、キャリアチェンジ犬の多くは「キャリアチェンジ犬飼育ボランティア」によってペットとして引きとられます。
一度パピーウォーカーから訓練センターに入った犬は、基本的には同じ家に戻ることはありません。
そのため、それぞれの都道府県や地域が「飼育ボランティア」を募集しており、審査やトライアルを通過した家庭がキャリアチェンジ犬を新しい家族として迎えます。
■飼育ボランティア募集サイト例■
・九州盲導犬協会
・東日本盲導犬協会
キャリアチェンジ犬飼育ボランティアに引きとられた犬は、生涯飼育が約束されています。一生に渡り多くの愛情を受けながら、幸福な第二の人生を歩むでしょう。
キャリアチェンジ犬飼育ボランティアになるための条件
室内飼育ができる
キャリアチェンジ犬は、それまでの人生をずっと室内飼育で過ごしてきました。
屋外飼育は犬にとって大きなストレスになる可能性があり、感染症の危険も増えるため、室内飼育が条件とされています。
留守番は4時間以内
キャリアチェンジ犬はそれまで盲導犬としての訓練を受けてきたため、排泄するには号令が必要です。
「日中の留守時間=排泄の我慢時間」となってしまうため、毎日4時間以上の留守番をさせてしまう家庭は、病気予防の観点からキャリアチェンジ犬ボランティアにはなれません。
節度のある愛情を持って飼育できる
キャリアチェンジ犬ボランティアになれるのは、心身の健康を保ち、節度のある愛情を持って飼育できる家庭に限られています。
犬の飼育に必要な健康管理(混合ワクチン接種・狂犬病予防・フィラリア予防・適正体重の維持・年に1回の血液検査・ノミやダニの予防など)を行い、飼育者としての義務を果たせることが条件です。
主な飼育者の年齢が65歳以下
キャリアチェンジ犬は大型犬であり、活発で元気いっぱいな性格の子が多い傾向にあります。そのため、十分に飼育できる体力があることが望まれます。
譲渡後は平均10年以上をともに過ごすこともあり、飼育者が65歳以上の場合は同居家族の協力が確実に得られることが条件です。
単身者ではない
在宅勤務で日中を家で過ごしている人でも、単身者の場合はボランティアになれません。
将来的に結婚や出産などのライフステージの変化により、飼育環境が変わる可能性が高いと考えられるためです。
急病や事故などの非常時でも、問題なくキャリアチェンジ犬の世話をできる家庭環境に限られています。
協会へ情報提供ができる
協会によっては、譲渡後の情報提供を必須としているところもあります。
その場合、定期的に連絡を取りあい、キャリアチェンジ後の生活を共有できることが条件です。
犬の名前を変更しない
キャリアチェンジ犬は、パピーウォーカーから訓練センターを出るまで同じ名前で呼ばれています。
そのため、譲渡後にボランティアが名前を自由に付けることはできません。
名前を変えずに終生飼育ができることが条件の一つです。
個人の申し込みに限る
キャリアチェンジ犬ボランティアは、施設・団体名義ではなれません。
個人の申し込みに限定されます。
会員費・寄付が必要になる可能性がある
キャリアチェンジ犬は基本的には無償での譲渡になりますが、譲渡時に寄付金が必要になる場合があることを覚えておきましょう。
寄付金の内訳は、過去のフード代や避妊・去勢手術の医療費などです。
また、賛助会員として月額(もしくは一口以上分の)費用が必要になることもあります。
キャリアチェンジ犬の譲渡の流れ
最後に、キャリアチェンジ犬ボランティアとして譲渡されるまでの流れを解説します。
①登録申込書を郵送・登録
まずは都道府県の盲導犬協会に問い合わせを行い、見学会や譲渡説明会の申込書をもらいます。
実際に見学や説明会に参加し、盲導犬や協会の活動理念を理解した後、担当職員からのヒアリングをクリアしてから譲渡の申し込みを行います。
②協会を通して犬を紹介される
「キャリアチェンジ犬譲渡待機者」として、協会からの連絡を待ちます。
家庭に合うキャリアチェンジ犬が現れたら協会から連絡がくるため、1週間以内に返答をします。
③トライアル後、正式な譲渡
面談を行った後、1~2週間のトライアル期間としてキャリアチェンジ犬との暮らしを体験します。
問題がなければ譲渡契約を結び、新しい家族との生活が始まります。
(※上記の譲渡の解説は、社会福祉法人兵庫盲導犬協会を参考にしています。都道府県・協会により細かな規定や流れが異なる場合があるため、詳しくはお住まいの市町村にお問合せください)
まとめ
今回は、キャリアチェンジ犬の特徴やキャリアチェンジ犬ボランティアについてご紹介しました。
盲導犬になるべく育てられたキャリアチェンジ犬は、人間や動物が大好きな傾向にあります。
多くの人たちに愛されて「第二の人生」を歩む彼らを見かけたら、今までの訓練を労いながら暖かく見守ってあげてくださいね。