国家資格化でどう変わる?愛玩動物看護師へのロードマップ

犬と猫を抱く動物看護師
ウサギ

子供の頃、将来の夢を聞かれて「動物のお医者さん、看護師さん」と答えた人も多いのではないでしょうか?

動物のお医者さん、つまり獣医師になるためには大学で獣医学を学び国家試験に合格する必要があります。

対して動物看護師は必須となる資格は存在せず、やる気さえあれば比較的受け入れられやすい就職環境にありました。

そうした中、令和4年5月1日より施行された「愛玩動物看護師法」 により動物看護師になるには国家資格が必須となりました。

今回は、動物看護師になりたい、もしくは興味がある方のために、資格を取るまでの手順をわかりやすく説明いたします。

また、動物看護師の仕事や収入についてもお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください!

愛玩動物看護師とは?

犬の診察をする獣医師を補助する動物看護師

愛玩動物看護師は文字通り、動物の看護師です。

業界ではAHT(animal health technician)やVT(veterinary technician)などと呼ばれており、獣医師と共にペットの健康を守る専門家といえます。

動物看護師の民間資格はあっても国家資格が存在していなかったこれまでは、獣医師のサポートをする人たちを看護師と呼んでいました。

しかし国家資格が誕生したことによって、資格を有した者だけが動物看護師となり、無資格の者は法定上、動物看護師ではなくなります。

とはいえ、無資格では動物病院で働けなくなるとは現時点では考えにくいです。

今回の法令では、動物看護師の取り扱う業務内容が拡大された点が大きな変化であって、施行以前のこれまでの業務ができなくなるわけではありません。

動物看護師は、高い専門知識と技能を持ち合わせた、獣医療の世界に欠かせない存在なのです。

なぜ国家資格になるのか?

犬を診察する獣医師

ここにきて動物看護師が国家資格化する理由の一つに、飼い主が求める獣医療のレベルが上がってきたことがあげられます。

動物病院は獣医師だけの力だけで成り立つものではなく、動物看護師との連携が不可欠です。

国家資格によって設けられた基準により優れた知識と技術を持つ動物看護師が確保され、診療や飼い主への対応の質が向上し、満足のいく獣医療を提供できることになります。

また獣医療の高度化、多様化によって多忙な獣医師の業務の一部を動物看護師に任せるべきといった背景もあるでしょう。

近年の働き方改革で、仕事の効率化や生産性を上げるための専門性の向上が重要視されています。

この愛玩動物看護師法によって、獣医師による医療、動物看護師による専門業務、そしてその他の業務と細分化されれば、多忙な動物病院の労働環境改善につながると考えられます。

愛玩動物看護師になるためのルート

獣医師と子猫たち

愛玩動物看護師の国家試験は、現在動物看護師として働いている人とそうでない人で受験方法が異なります。

大きく分けて3通りの受験ルートがあるため、それぞれ解説します。

①初めて業界に踏み入る場合のルート

これから動物看護師になりたい、興味があるといった方は、こちらの受験ルートになります。

国家資格化する以前も、専門学校(養成所も含む*以下専門学校)で学んだ後に動物病院へ就職する流れが一般的でしたが、これからは進学が必須となります。

以下の順序で試験合格を目指します。

(1)指定の大学、専門学校で必要な知識や技能を学ぶ
(2)国家試験を受ける

受験資格を得られる指定の大学や専門学校は、今後増えていきます。最新の情報は農林水産省のホームページをご覧ください。

農林水産省より
農林水産大臣及び環境大臣が指定する科目を開講する大学(法第31条)(令和4年3月31日現在)
都道府県知事が指定する養成所(法第31条)(令和4年5月26日現在)

また、今まで動物看護を扱っていた専門学校の多くが、指定校のための申請段階にあります。指定校であるかどうかを確かめるには、ホームページをチェックするか直接問い合わせて回答を得るのがよいでしょう。

②専門学校などを既に卒業している場合、もしくは現在在学中の場合のルート

既に受験資格に必要な科目を修了している、もしくは修了予定の方は、こちらのルートを経て受験することになります。

(1)法施行日前に入学し、指定の大学や専門学校で必要な知識と技能を学ぶ
(2)講習会を受ける
(3)国家試験を受ける

①のルートとの大きな違いは、講習会を受講する必要があることです。

イメージとしては運転免許更新の際にある講習のようなものと考えてよいでしょう。

自身が受験資格を有しているのか知りたい場合は、卒業元、もしくは在学中の学校に直接問い合わせるのが確実です。

③専門校などは出ていないが、実務経験のある場合のルート

大学や専門学校を出ていないが、実務経験5年以上の実績を持っている方のルートです。

実務を5年以上続けていれば、既に動物看護師として必要な知識や技能を身に着けているとの判断となり、受験資格を与えようとするものです。

試験までの必要条件と流れは以下の通りです。

(1)実務経験が5年以上ある
(2)講習会を受講する
(3)予備試験を受ける
(4)国家試験を受ける

講習会を受講したのち予備試験があり、合格できれば国家試験を受けることができます。

受験資格を得るための進学先

犬を膝にのせて勉強する女性

将来的に愛玩動物看護師の受験資格を得るには、大学もしくは専門学校で学ぶ必要があります。

どちらに進むべきかについては、それぞれのメリット・デメリットを確認した上で検討しましょう。

大学

受験資格を得られる大学は現在(令和4年3月31日時点)、11校あります。

愛玩動物看護師になるために大学に進学するメリット・デメリットは、以下の通りです。

【メリット】
・基本的に4年制であるため、時間をかけて学べる
・一般教養などの講義も選択できるため幅広く学べる
・卒業時には「学士」の資格が得られ、動物看護師以外の就職にも有利になる

【デメリット】
・専門学校と比べて学費が高い
・専門学校より1年多く時間を費やして大学を出ることの優位性が不透明(その1年を使って動物病院で実践での学びを得る方が、より成長できるかもしれないなどの理由)

専門学校(養成所)

多くの専門学校が新制度への移行対応中であり、受験資格を満たすための指定校はこれから増えていくと考えられます。

愛玩動物看護師になるために専門学校(養成所)に進学するメリット・デメリットは、以下の通りです。

【メリット】
・動物看護師としての必要な知識技能を専門的に効率よく学べる
・入学のための難関な試験はほぼない
・大学に比べ学費が安い

【デメリット】
・専門的である反面、動物看護師以外の職業の選択が狭まる
・大学は偏差値や大学入学共通テスト(旧センター試験)など数値を基準にして入学先を選択できるが、専門学校はカリキュラムや設備、実績を考慮して慎重に見極める必要がある

動物病院への就職活動

日本には1万件以上の動物病院があり、その中からどのように探せばよいのかを説明します。

なお、多くの動物病院が就職前に現場での実習や見学を取り入れています。

気になる動物病院があれば積極的に連絡をしてみましょう!

動物病院から学校へ届く求人情報

動物病院は、大学や専門学校に求人情報を出しています。

全ての動物病院が出しているわけではありませんが、地元で就職先を探している方であれば、真っ先にチェックしておきたい求人情報でしょう。

求人情報サイト

求人サイトに広告を出している動物病院もあります。

しかし求人サイトには広告費がかかるため、有名な求人サイトを使っている動物病院は少ないです。

獣医業界に特化した求人サイトを利用した方が効率的に探せるでしょう。

獣医業界に特化した求人サイト例
ペットリクルート
イーアニマルホスピタル

個人病院のHPの求人情報

「ここの動物病院に就職したい!」と希望するなら、動物病院のホームページを確認しましょう。

たとえ求人情報が載っていなくても、連絡した方がよいです。

日々の業務が忙しくホームページの更新が遅れている動物病院も多いため、「実は募集しようと思っていた」と返事がくることもあるからです。

愛玩動物看護師の将来性

犬を診察する獣医師と保定する看護師

新たに国家資格とした理由に、動物看護師の認知度を上げ、獣医療の発展に貢献する目的があります。

ペットと人との関係がますます深まる未来において、動物看護師の役割は多様化し広がっていくでしょう。

業務内容

ここでは動物病院における業務内容を説明します。

【国家資格化以前の業務】

現状では、極端に言えば獣医師が行う医療行為(病気の診断や治療方針、手術など)以外の全てが業務対象です。

具体的には以下のようなものになります。

・院内の清掃
・受付・電話対応
・診察中の保定、診断を伴わない検査
・薬、処方食、備品などの在庫管理
・入院患者の世話・経過観察と報告
・ワクチン、フィラリア予防のためのDM作成
・ペット保険の診療明細処理

【国家資格化によって可能になった業務】

国家資格化したことで変わった点は、獣医師の指示の下で「医療行為」の一部が可能になったことです。

具体的には以下のようなものです。

・採血
・投薬
・マイクロチップの挿入(令和4年6月よりマイクチップの装着が義務化されました)
・採尿のためのカテーテル挿入

これらは動物病院において比較的多く行われる診療行為であり、国家資格化前は獣医師にしか許されない行為でした。

しかし一部の医療行為が動物看護師にも可能になったことで、獣医師は診断や治療方針の決定など他の業務に時間を使うことができ、診療の質が向上することが期待されます。

【今後の動物看護師の役割】

「国家資格化によってこれまで以上に業務が増えたら大変なのでは?」と思われるかもしれませんが、今後は業務の役割が変化するのではないかと予想されます。

既に人の医療においては、医療事務や薬剤師、検査技師など役割が明確に分かれており、それぞれが職業として成り立っています。

動物病院においても動物看護師が専門性の高い業務を行い、それ以外は他の者に任せるようになることは自然の流れかもしれません。

給与

厚生労働省によると、動物看護師の全国平均年収は「323.5万円」です。

これは国家資格化前の数字になりますので、資格化が給与にどのように反映されるかはまだわかりません。

参考:職業情報提供サイト jobtag(厚生労働省)

キャリア形成

動物看護師が院内でステージアップすると、いわゆる看護師長のような存在になります。

新人を育てることはもちろん、院長と連携し病院経営に関わることもあるでしょう。

しかし病院を飛び出し、社会といった大きな枠で考えると、明確なキャリアプランはありません。

国家資格を強みにできるような、動物看護師目線の新しいサービスを考えられる柔軟さが必要です。

犬や猫の高齢化に伴う訪問看護や、健康面での不安に対する相談窓口、医学に基づいたオリジナルフード作りなど、獣医師では手が回らない、かつ需要のありそうなサービスは提供価値がありそうです。

明確なキャリアプランがないということは、逆に自分次第でチャンスが広がる魅力的な世界だと言えるのではないでしょうか。

まとめ

笑顔の看護師と犬

愛玩動物看護師が国家資格になることを知っている人は少ないかもしれません。

しかし日本だけでなく世界的な傾向として獣医療は大きな役割と発展が望まれており、その一環としてこうした動きがあります。

獣医師とは異なる立場と目線、考え方で獣医療の業界を引っ張る動物看護師を目指してみませんか?