猫エイズってどんな病気?特徴や感染経路、予防策までしっかり学ぼう
「エイズ」と聞くと、不治の病と心配になるかもしれません。
しかし、猫のエイズと人間のエイズは似て非なるもの。完治する病気ではありませんが、感染=必ず亡くなる病気とは限りません。
今回は、猫の感染症の一つである猫エイズについてご紹介します。
症状や予防策なども解説していますので、猫を飼育している方はぜひ最後までご参考にしてください。
「猫エイズ」ってどんな病気?
猫エイズは、ウイルスに感染することによってかかる猫の病気の一つです。正式名称を「猫免疫不全ウイルス感染症」といいます。
猫エイズは、感染している猫の唾液・血液・乳汁・精液などに存在しており、ほとんどの場合は粘膜を媒介として感染します。
感染した初期に発熱やリンパ節が腫れた後、長い潜伏期間に入るのが特徴です。
猫エイズの特徴
一度感染すると消えないウイルス
猫エイズの原因となる猫免疫不全ウイルスは、一度感染すると一生涯に渡り体内に滞在し続けます。
つまり「不治の病」ではありますが、ウイルスや症状への正しい理解を身につけることで健康被害を最小限に留められる病気です。
10%が感染する身近な病気
猫エイズは、日本の猫の約10%が感染しているといわれる病気です。
室外飼育・半室内飼育をしている場合は、猫エイズウイルスを所持している野良猫と接触する可能性があるため、感染の危険性が高まります。
人には感染しない
人間のエイズと違い、猫エイズは人間には感染しません。
また、犬にも感染しないため、猫の多頭飼いをしていない場合は家庭内感染の可能性は低いといえるでしょう。
「感染=発症」ではない
猫エイズは感染力が弱いだけでなく、長い潜伏期間があることが特徴です。
個体によっては数年~数十年、あるいは亡くなるまで発症すらしない個体もいます。
感染率10%は決して低い数字ではないからこそ、感染したからと悲観的になるのではなく「いかに発症をさせないか」を考えるべきといえるでしょう。
死亡率は年々上がるが高くはない
猫エイズは、症状が進行すると最終的にはほぼ確実に死亡する病気です。
しかし潜伏期間の長さを踏まえると、「猫エイズが原因での死亡率」は高くありません。
特にシニア猫は、感染に気づくことなく別の病気や寿命で亡くなることも珍しくありません。
猫エイズに感染した場合、最初の100日間で亡くなった場合を除けば3年生存率は約94%、6年生存率は約80%といわれています。
猫エイズの感染経路
猫エイズの感染経路は、主に「喧嘩による咬傷」や「交尾」です。
猫同士の喧嘩によって噛まれた傷口からウイルスが侵入するケースが一般的でしょう。
空気感染・飛沫感染の可能性はほぼありませんが、稀に経口感染の可能性はあります。ただし、感染した猫が舐めたお皿をすぐに他の猫が舐める、といった行為がない限りは不安は少ないでしょう。
また妊娠や授乳を通して子猫へと感染する場合もありますが、こちらも非常に稀なケースです。
基本的には「エイズキャリアの猫に噛まれて感染するもの」だと覚えておきましょう。
猫エイズの症状
猫エイズの症状は、5つの病期に分けられます。
急性期
急性期(AP)は、感染から8~12週間が経過した時期です。
急性期には血中のウイルス量がピークに達し、食欲不振・発熱・貧血・下痢などの症状がみられます。
しかし比較的早めに体調は回復するため、病院での検査のタイミングを逃してしまいやすい時期でもあります。
無症状キャリア期
無症状キャリア期(AC)は、ウイルス量が減少している時期です。猫の免疫によってウイルスの増殖が抑えられており、症状はありません。
無症状キャリア期は数年から一生に渡って持続すると考えられており、猫エイズに感染したことに気づかずに天寿を全うする猫もいます。
持続性全身性リンパ節症期
持続性全身性リンパ節症期(PGL)では、前進のリンパ節が大きく腫れる傾向があります。
数ヵ月~1年ほど続くといわれています。
エイズ関連症候群期
エイズ関連症候群期(ARC)では、免疫異常に伴うさまざまな症状が現れはじめます。
口内炎・歯肉炎・皮膚病変・消化器症状などが代表的で、数ヵ月~数年ほど続くといわれています。
後天性免疫不全症候群期
後天性免疫不全症候群期(AIDS)は、猫エイズの末期です。
免疫不全による症状が悪化し、貧血・腫瘍・衰弱・体重減少などがみられます。
また、免疫力が下がっているため、健康な猫では害のない弱いウイルスや細菌などにも感染し発症する「日和見(ひよりみ)感染」が増えます。
猫エイズの検査方法
猫エイズの検査は動物病院で行われます。
ウイルス自体を調べる検査ではなく、感染により生成される「ウイルスへの抗体の有無」を調べる検査です。血液を検査キットに付着させる方法で調べます。
抗体が生まれるまでには一定の期間が必要なため、確実な結果を得るためには「感染したと推測される日」から約1~2ヵ月後の受診が望ましいでしょう。
猫エイズの治療方法
猫エイズは、現代の医学では一度感染したら完治が不可能な病気です。
そのため、症状の進行を抑える・軽減させることが治療の目的になります。
抗ウイルス治療
猫エイズの治療方法は大きく分けて2種類あります。
一つは「抗ウイルス治療」です。
抗ウイルス治療は、感染初期に体内でウイルスが複製される過程を阻害する目的で行われます。
エイズウイルスの増殖を抑える抗ウイルス剤である「ジドブジン」や、ウイルス感染時に身体を守るために作られるたんぱく質「インターフェロン」などを投与することにより、進行を抑えます。
対症療法
もう一つの治療方法は「対症療法」です。
ウイルス自体へのアプローチではなく、猫エイズ感染によって引きおこされた症状への対処となります。
例えば口内炎や歯肉炎には抗炎症作用のあるステロイドを用いたり、二次感染防止のための抗菌薬を投与したりなどの治療法が挙げられます。
その他の症状も進行や程度に合わせて、随時対処を施します。
猫エイズの予防方法
定期的な健康診断
猫エイズの症状に早く気づくためには、定期的な健康診断が必要です。
体重減少や下痢などのわかりやすい症状が出た場合は、すぐに動物病院を受診するように心がけましょう。
また、早期では口内炎や歯肉炎などの一見わかりづらい症状が出るため、元気な個体でも最低年に1回、できれば半年に1回の健康診断をおすすめします。
猫エイズのワクチン接種
以前は猫エイズを予防するためには「他の猫と触れさせないこと」が最も重要でしたが、2008年10月にワクチンが発売され、多頭飼いでも予防できるようになりました。
一般的に動物病院で摂取される「混合ワクチン」には含まれていないため、別で接種が必要となります。
完全屋内飼育
主な猫エイズの感染経路は、外猫(野良猫を含む)との喧嘩です。
猫エイズキャリアの猫に噛まれることで感染の危険性が上がるため、「外に出られない環境づくり」が最善の予防方法となります。
避妊・去勢手術
猫エイズは喧嘩で噛まれた場合の他、交尾で感染する可能性があるといわれています。
そのため、避妊・去勢手術を行うことで交尾の機会が減り、感染の機会を防げるでしょう。
また、雄猫の場合は去勢手術をすることで喧嘩が減ることが期待できます。
消毒・乾燥
猫エイズウイルスは、猫の体を離れると感染力を失う弱いウイルスです。
そのため、猫が使ったものの消毒と乾燥した環境づくりを心がけることで、ウイルスの活動を失わせることが可能です。
ペットシートやアルコール消毒液を活用しながら、ウイルスが広がりづらい環境をつくりましょう。
猫エイズに感染してしまったら
感染した猫は隔離して飼育する
もしも猫エイズに感染してしまったら、感染した猫は隔離して飼育しましょう。
猫を多頭飼いしている家庭では、家庭内で二次感染する危険があります。トイレやフードボウルも専用のものを用意し、感染した猫と他の猫が触れあわない空間づくりをしてください。
避妊・去勢手術がまだの猫は、感染リスクを下げるためにも前向きに手術を検討しましょう。
ただし、今まで仲がよかった猫同士の場合は隔離された寂しさからストレスをためてしまうケースもあります。
不安な場合は専門医を受診し、状況に応じたアドバイスを仰ぎましょう。
外には出さない
猫エイズの主な感染経路は、他の猫との接触によるものです。
感染を防ぐため、室外飼育や半室内飼育の場合は完全室内飼育に切りかえましょう。
免疫力を高める食事を与える
猫エイズに感染すると免疫力が下がるため、日和見感染の可能性が懸念されます。
普段から免疫力を高める食事を与えるように心がけてください。
フードの切り替えによるストレスは免疫力低下の原因にもなるため、少しずつ無理のないペースで進めてくださいね。
ストレスをためないように過ごさせる
特に潜伏期では、ストレスを減らすことにより猫エイズが発症しにくくなるといわれています。
猫ができるだけのびのびとストレスなく暮らせるように、引っ越しや模様替えなど飼い主さん側のライフスタイルの変更を検討してください。
まとめ
今回は、猫エイズの症状や予防法、対処法についてご紹介しました。
猫エイズは命をむしばむ病気ではありますが、飼い主さんの努力によって発症を防ぐことが可能です。
病気を怖がるだけではなく、深く理解し、正しく付きあっていきましょう。
また、新しい猫と出会う際も注意が必要です。野良猫を拾ったり保健所から猫を引きとったりした場合、既に猫エイズに感染している可能性があります。先住猫に感染してしまう危険もあるため、健康体に見えてもまず動物病院を受診しましょう。