「猫は3年の恩を3日で忘れる」ってホント?猫の記憶力を徹底解説!

「犬は3日飼えば3年恩を忘れぬ」「猫は3年の恩を3日で忘れる」という言葉を聞いたことがありますか?犬の従順さと猫の薄情さが揶揄されている、ユニークなことわざです。
とはいえ、猫と暮らしていると「実は猫って記憶力がいいのでは?」と思うこともしばしば。
猫には言葉が通じないため、実際に何をどこまで覚えているのかを聞けないのがもどかしいですよね。
果たして、猫は3年の恩を本当に3日で忘れてしまうのでしょうか?
今回は、猫の記憶力について幅広くご紹介します。
記憶の種類は大きく分けて2種類ある
私たちは、日々の出来事を記憶して物事を考えるために役立てています。
記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があり、猫もその2種類を使って生活しています。
・短期記憶:比較的短い時間、頭の中に保持できる記憶
・長期記憶:比較的長い時間、頭の中に保持できる記憶
例えるなら、短期記憶はテストのために無理やり詰め込んで覚えた一過性の記憶です。テストが終わればすぐに忘れてしまうような一時的な記憶を指します。
対して長期記憶は、毎日反復して覚えた内容を指します。
つまり短期記憶を習慣化させ、頭の中で何度も繰り返すことで長期記憶へとつながっていくのです。
猫の短期記憶能力は、実は人間の〇〇倍!
猫の短期記憶力は非常に優れている
「猫は記憶力が悪い」と思っている人も多いですが、実は短期記憶に関しては非常に優れた能力を持っています。
過去にさまざまな実験が行われた結果、猫の短期記憶力はなんと人間の20倍も優れていることがわかったのです。
視覚的なイメージを覚える能力に長けていて、人間は30秒程度しか覚えていられない情報量と同等の内容を、猫は10分以上も継続して記憶できました。
もしも猫にテストの一夜漬けをさせたら、かなりの能力を発揮できるかもしれません……!
犬と比べても短期記憶の能力差は歴然
芸をする犬は多いですが、芸のできる猫は少ないですよね。そのため犬は猫より記憶力がよいと思われがちですが、短期能力においては猫に軍配が上がります。
過去に行われた実験で、餌の入った箱にランプを点灯させ「この中に餌が入っている」と猫に覚えさせました。すると驚くべきことに、猫は16時間経過しても箱の中の餌の存在を覚えていたのです。
同じ実験を犬に行った結果、意外にも5分しか覚えていられなかったのだとか。
猫の短期記憶力は犬と比べ、はるかに高いことがうかがえます。
「対象の永続性」から猫の知能がわかる
猫とかくれんぼで遊んだことがある飼い主さんは少なくないでしょう。
実はかくれんぼのルールには、猫の知能を探る重大な要素が含まれています。
かくれんぼで遊ぶためには「隠れた物体が依然としてそこにあり続ける」と理解し、記憶し続けなければなりません。この能力を「対象の永続性」と呼びます。
猫も、物陰に隠れた飼い主さんが出てくるのも待っていたり、トイレやお風呂の出待ちをしていたりしますよね。これらの行動から、猫に対象の永続性があることは明白です。
そしてカナダの大学が行った調査によると、猫が持つ対象の永続性の能力は「人間に換算すると1.5~2歳程度である可能性がある」とわかりました。
人間の2歳といえば、知能が高まり行動や自己表現の幅がグンと広がる時期。猫も同じくらいの知能を持っていると思うと、驚きを隠せませんよね。
長期記憶力も決して悪くはない
経験に状況を紐づけて記憶する
猫の短期記憶力の素晴らしさはお伝えした通りですが、長期記憶力も決して悪くはありません。
長期記憶は、出来事そのものと「状況」が結び付いていることが多いです。
例えば「シャンプーをされた」という出来事は短期記憶ですが、そこに「飼い主さんがお風呂場に行った」「シャンプーを持って近付いてきた」という状況が紐付けられることで、長期記憶に移行することがあります。
つまり、特定の出来事を思い出させる視覚・聴覚的な要素が結び付くことにより、長期記憶として根付かせることが可能なのです。
単独行動生物であることも関連した能力
猫が長期記憶も保持できるのには、単独行動生物であることも関連しています。
猫は群れを成さずに単独で狩りをする生き物であるため、自分の身を自分で守るために記憶力に頼る必要があります。
例えば「ここの寝床は以前に他の敵に襲われた」「この餌を食べたらお腹を壊した」のように、出来事と状況を紐付けることでリスクを回避でき、生存率を高められるのです。
猫の記憶力の弱い部分は?
興味のないことへの記憶力はかなり低い
これは猫の憎めない点でもありますが、猫は自分の興味のないことへの記憶力はかなり低い傾向があります。自分に関係ないことやメリット・デメリットのないことは、すぐに忘れてしまうそうです。
餌を使った実験では記憶が16時間も続きましたが、中身を餌からおもちゃに変えるとなんと10秒も覚えていられなかったのだとか。損得勘定で生きている猫らしい結果ですね。
長期記憶は2~3年が限界といわれている
猫が長期記憶を残せるのは3年程度が限界だといわれています。もちろん3年以内に思い出せたり、さらに記憶を色濃くする出来事があったりすれば記憶を保持できる期間はどんどん延びていきます。
あくまでも、状況に紐付けた特定の出来事・人物のみの記憶は3年程度しか持たないということです。
「メリットがある」と記憶しないと芸は覚えない
猫は犬と違って飼い主への主従感情はないため、飼い主のために芸を覚えることはありません。
しかし猫の記憶力の特徴を利用し、メリットを与えることで芸を仕込むことはできるでしょう。
例えば「右手を握る」「お手と言う」「おやつをあげる」という行為をセットで行うことで、猫は「右手を握られる」「お手と言われる」という状況と「おやつをもらえる」という出来事を関連付けます。
一つひとつは短期記憶ですが、何度も繰り返すことで長期記憶として覚え、「おやつがほしいときには右手を出す」「お手と言われたら右手を出す」のように記憶していくのです。
子猫時代の記憶は社会化に大きな影響を与える
猫には、幼い子猫時代の記憶はほとんど残らないといわれています。そのため、血縁関係のある親や兄弟と離れてもすぐに忘れてしまうそうです。
しかし子猫時代に培った社会化の記憶は、無意識下で根付いています。とくに生後2~7週間は社会化期と呼ばれ、人間や他の動物と触れ合う家庭でコミュニケーション能力を養います。
この時期にしっかりと社会化の練習をしていれば、具体的な記憶自体は忘れてしまっても社会性を持った性格を養えるでしょう。
子猫時代の記憶は、小さな出来事の積み重ねで形成されています。できるだけ多くの人と触れ合い、社会を学ばせることがその後の成長のために大切です。
猫の記憶に残りやすい出来事は?
瞬間的に恐怖や拒否感を抱いた出来事
猫の記憶にとくに残りやすいのは、恐怖や拒否感を抱いた出来事です。
「猫には幸せな記憶だけを残してあげたい」と思っている人には悲しい事実かもしれませんが、単独生物の猫がリスク回避をするためには避けられない習性です。
「怖い」「嫌だ」「危ない」と思った出来事を強く記憶することで安全に生活ができるため、安らぎを感じられる毎日のためには欠かせない能力といえるでしょう。
食べ物に関する出来事
当然ですが、人間も猫も食べ物を食べなければ生きていけません。
食べ物に関する記憶は生死に直結する情報のため強く残りやすく、飼い主さんがフードの保管場所に向かっただけでも「ごはんがもらえるの?」とついてくる子もいるほどです。
興味を持ち自ら学習した出来事
猫は、興味のあることを自ら学習して覚える賢い生き物です。
例えば、ドアノブに飛びついてドアを開けたり、フードの袋を開けて中身を出したりしますよね。
飼い主さんにとっては悩みの種になる場合もありますが、気になることは何度もチャレンジして覚える賢さは猫の魅力でもあるのです。
心が大きく動いた出来事
ショッキングなことだけではなく、喜怒哀楽すべてにおいて心が大きく動いた出来事は色濃く記憶に残ります。
例えば「最高のお昼寝場所を見つけたぞ」「このおやつ、信じられないくらいおいしい……!」などのポジティブな出来事も、恐怖体験と同じように深く覚えることが可能です。
猫は飼い主のことを覚えてくれている?
短期記憶の繰り返しで長期記憶へ
猫は短期記憶を何度も繰り返すことで、長期記憶として定着させます。
毎日飼い主さんの顔を見たり声を聞いたりごはんをもらったりすることを繰り返せば、「この人は一緒に住んでいる人、ごはんをくれる人、優しくしてくれる人」と覚え、記憶に残してもらえるでしょう。
愛情を感じることで記憶が定着する
「猫は薄情で懐かない生き物」と思っている人もいますが、決してそんなことはありません。
愛情を正しく注いでくれた飼い主さんのことは長く忘れませんし、猫自らアプローチしてくれます。
猫が飼い主を覚える方法は音や匂い
猫はもともと視力が良い生き物ではありません。動いているものに反応する動体視力や暗い空間でも視界を確保する力は優れていますが、静止している物を見るときは0.1~0.2程度の視力しかないといわれています。
そのため、猫が飼い主を覚える方法は外見からではなく足音や声、匂いなどからです。
飼い猫に覚えてもらいたい人は、毎日同じ部屋着やスリッパを身に付けることで長期記憶につながりやすくなるでしょう。
数日程度なら忘れることはない
猫は長期記憶も保持できるため、数日程度なら飼い主さんを忘れることはありません。ただし、前項で解説したように猫の長期記憶は3年程度が限界といわれています。
出張や長期入院などの特例がない限り3年も飼い猫と会わないということはなかなかないとは思いますが、猫に忘れられたくなければ最低でも1年に1回程度は顔を合わせるようにしましょう。
素っ気ない態度を取られても安心して
猫に数日会わなかった後に素っ気ない態度を取られると「もしかして忘れられた……?!」とショックを受けるかもしれませんが、ご安心ください。
猫は数日程度で飼い主さんを忘れませんし、そもそも猫は他の生き物に素っ気ない態度を取る生き物です。
そして猫は「自分以外の誰かのためには動かない生き物」。飼い主さんに気を遣って挨拶をしに行く、という意識は基本的にありません。
あるいは、数日会わないと匂いが変化する可能性があります。猫からすると「飼い主の声はするのに匂いが違う」と動揺しているかもしれません。
シャワーや消臭剤で匂いをリセットし、普段猫と接している空間や服装で再チャレンジしてみましょう。
もしも猫に忘れられてしまったら
もしも飼い猫に忘れられてしまったと感じたら、記憶を呼び起こすような行動をしてみましょう。
具体的には、過去に一緒に遊んでいたおもちゃでコミュニケーションを取ったり、よくあげていたおやつを与えたりといった行動です。
長期記憶に紐付かれている「状況」を再現し、記憶を刺激しましょう。
かつて一緒に過ごした時間が長かった関係であるほど、スムーズに思い出してくれるはずです。
まとめ
今回は、猫の記憶力についてご紹介しました。
猫は興味のないことはすぐに忘れてしまう生き物。だからこそ、愛情を与えてくれた飼い主さんのことは簡単には忘れません。
猫にとって飼い主さんは、リーダーでもご主人様でもありません。ごはんをくれる同居人や、一緒にいて落ちつく人などの認識でしょう。
それでも同じ時間を過ごすことで猫が安らぎを感じられれば、いつまでもポジティブな記憶として残ります。
できるだけたくさんの幸せな記憶を残してあげられるように、これからも楽しく穏やかな思い出を作ってあげてくださいね。